ソフトウェア産業の主流のビジネスである受託開発は、現在のIT業界をおかしくしているひとつの大きな原因です。これは、IT業界の多くの方が感じていることでしょう。
私もSEとしての12年間の経験の中で、受託開発の難しさを身をもって感じてきました。
顧客とベンダーの認識の違いを乗り越えることは、容易ではありません。顧客に仕様変更を認めてもらうことは大変です。顧客企業には「すべてを言わなくても、それぐらい考慮して作るべき」だという認識が根強くあります。付き合いが長くなればなるほど、この傾向は強くなります。つまり、「あ、うんの呼吸」ですね。また、プロジェクト管理や組織的な品質管理にも高度なスキルが要求されます。少しトラブルが発生すると、すぐに工数は膨らみ利益は吹っ飛びます。そのようなリスクを回避しようとすればするほど見積金額は上がり、受注が難しくなります。顧客との交渉力、営業力の向上やPMBOKによるプロジェクト管理の高度化などは、経営資源(特に人材)に限りがある中小のITベンダーには難しい課題です。その他、受託開発には、資金繰りが厳しい、景気の影響を受けやすいなど様々な問題があります。
つまり、経営的な観点から言うと、
受託開発はビジネスとしてはあまり魅力的なものではありません。「ミドルリスク・ローリターン」のビジネスと言えます。受託開発は、結局は労働力を切り売りするビジネスです。これは、多くのベンダーの見積もりを見ればわかることです。基本的に、人月工数×単価で顧客に見積が提示されます。技術を売っている、スキルを売っている、と考えている人もいるかもしれません。しかし、それは単価アップの1つの手段であって、本質的に売っているものではありません。請負契約では、成果物を売っているわけでもありません。こうなると、顧客はいかに安く労働力を仕入れるか、ベンダーはいかに高く労働力を売るか、ということになります。ここに、利益相反の本質があります。労働力を売って収益を得るというのは、サラリーマンと同じです。つまり、受託開発はサラリーマン的なビジネスだと言えます。これは、プライムでも下請けでも変わりません。
では、なぜ受託開発を行うソフト会社がこれほど世の中に溢れているのでしょうか?実は、業界の多重下請構造の中で、受託開発の下請仕事であれば比較的容易に仕事が見つかるのです。そのため、多くのベンダーが安易に受託開発に流れます。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
比較的容易に仕事があるということは、それだけ参入障壁が低い業界だということです。そのため、どんどん新しい企業が参入してきます。受託開発のニーズが右肩あがりで増えている間はなんとかなります。しかし、本格的なクラウドの時代に差し掛かり、受託開発のニーズに陰りが見えてきた場合には、
下請ベンダー間の過当競争や淘汰が始まることは目に見えています。このような状況で受託開発しかできない会社が生き残るのは容易ではありません。
また、一度受託開発に流れると、資金繰りの厳しさから多くのベンダーがまた新たな受託開発の案件を探し始めます。つまり、
自転車操業が始まるのです。資金繰りを回すために受託開発を探し続け、受託開発から抜け出せなくなってしまいます。プロジェクトで一度トラブルが出れば社員総出で対応する日々が続き、新しいことにチャレンジする体力や意欲が失われていきます。新規参入が容易で、抜け出すのが難しい、まるでタバコみたいなビジネスです。
では、受託開発は今後どうすればいいのでしょうか。プライム企業では、顧客との契約形態を見直すことが考えられます。具体的には、成果報酬的な要素を盛り込むなど顧客と利益をともにできる契約を導入することです。受託開発を成功に導くための一番のポイントは、いかに顧客とベンダーの協力体制を構築するかです。顧客と利益や目標を共通に持つことができると、この顧客とベンダーの協力関係が築きやすくなります。実際にそのような取り組みをされている企業もあります。
しかし、IT業界の多重下請構造に巻き込まれている下請ベンダーでは、こういう契約を結ぶことはできません。そのような下請ベンダーは、独自の商品・サービスを作り、早く受託開発から脱却するべきでしょう。受託開発から脱却することが、下請ベンダーが抱える問題を根本的に解決する最良の手段になります。
ITには様々なビジネスの可能性があります。現在、新規事業を考える上でIT業界ほど恵まれた環境はありません。私の知り合いの起業家の中でも、IT関連で起業する人が多くいます。決して技術的に難しいことに取り組んでいるわけではなく、ITの持つ特徴を有効に活用したビジネスモデルを作りだしているのです。ソフトウェアの開発ができるITベンダーこそ、新しいビジネスを生み出すのに一番有利なポジションにいるのです。